薬剤疫学、医薬品安全性監視が専門である薬学博士の堀内有加里さんに前回の記事に続く内容を寄稿いただきましたので、ご紹介します。
今回は、ワクチンを含む新しい医薬品が認可され使用が始まった後の、安全性を確認するためにどのような制度になっているのか、を解説していただいています。
新型コロナワクチンが特例承認された後、国はどのようにしてその副反応情報を吸い上げて、安全性を評価していくのか、その方法や構造について知っておきましょう。
以下、堀内氏からいただいた寄稿になります。
医薬品安全性管理計画、医薬品の製造販売後にリスクを確認する仕組み
市民審議会のホームページをご覧の皆様、こんにちは。
前回は、「医薬品等の開発の流れと新型コロナワクチンの開発の経緯や承認について」のお話をさせていただきました。今回は、その続編として、「市販後の医薬品等の安全性監視」についてお話したいと思います。
前回お話しさせていただいたように、新規の医薬品やワクチンは、承認段階で実施された臨床試験だけではその安全性を完全に把握することはできません。
そのため、市販後にも常に安全性についての監視が必要になります。これを医薬品安全性監視(PV:Pharmacovigilance)と呼びます。
医薬品安全性監視とは、世界保健機関(WHO)により「医薬品の有害な作用または医薬品等に関連する諸問題の検出、評価、理解及び予防に関する科学と活動」と定義され、医薬品等の副作用(副反応)情報を収集するだけではなく、集積された情報を評価し、副作用(副反応)の予防につなげるための様々な行動を意味します。
規制当局や研究機関だけでなく、医療機関(医療関係者)や製薬企業等、医薬品の適正使用に関わる様々な組織が医薬品安全性監視を担っています。
医薬品安全性監視の一つとして、医薬品安全性管理計画(RMP:Risk Management Plan)というものがあります。
RMPとは、2012年4月から導入された制度で、①安全性検討事項、②医薬品安全性監視活動、③リスク最小化活動を3要素として、医薬品等の承認時や製造販売後にその時点で得られている情報をもとに、安全性検討項目を特定し、それを踏まえて実施すべき市販後の情報収集、調査・試験の計画、リスクの低減を図るための対策の計画を指します(図1)。
製造販売後に新たな安全性に関する情報が得られた場合にはその時点で追加修正されます。新しい技術を用いた医薬品等に関しては、RMPを策定することが承認条件となります。
RMPにおける3つの安全性検討項目
RMPの安全性検討項目として、①重要な特定されたリスク(既に医薬品との関連性がわかっている有害事象のうち重要なもの)、②重要な潜在的リスク(医薬品との関連性が疑われる要因はあるが、治験データ等から確認が十分でない有害事象のうち重要なもの)、③重要な不足情報(治験対象から除外されているがリアルワールドでは高頻度で使用が想定される患者集団などにおける安全性情報)、が特定されています(図2)。
医療現場において医薬品の適正使用を図り、必要な製造販売後の調査および試験を円滑な実施するために、医療関係者の理解を得ることが必須となる為、策定されたRPMとその概要資料は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)のホームページに公表されています。
PMDAとは、2001年に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画を受けて、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構、国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター、財団法人医療機器センターの一部の業務を統合し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づいて2004年4月1日に設立された機関で、「医薬品等の承認審査」「医薬品等の安全対策」「医薬品等による健康被害救済」の3つの役割を担っている公的機関です。
では、今回の新型コロナワクチンのRMPはどのようなものなのでしょう?
新型コロナワクチンのRMPとは?
現在国内で流通している新型コロナワクチンは、主にファイザー社製とモデルナ製がありますが、例としてファイザー製の「コミナティ筋注/コミナティ筋注5~11歳用」に関する最新のRMPを図3に示します。
「重要な特定されたリスク」には、ショック、アナフィラキシーと心筋炎・心膜炎が記載されています。
ショック、アナフィラキシーに関しては、これまでに使われてきた他のワクチンと同様に承認前の臨床試験で関連が明らかになっていましたが、心筋炎・心膜炎に関しては、国内外で新型コロナワクチン接種後に重篤な心筋炎・心膜炎の副反応疑いが報告され(特に若年男性において2回接種後に発生頻度が高かった)、その中には致命的な転帰に至った症例が報告されていることから市販後に新たにRMPに追加されたリスクです。
つまり、承認前の臨床試験では心筋炎・心膜炎のリスクは特定されていなかったということになります。
「重要な潜在的リスク」には、ワクチン接種に伴う疾患増強(VAED)およびワクチン関連の呼吸器疾患増強(VAERD)とギラン・バレー症候群が記載されています。
潜在的なリスクとしてのVAED,VAERD,ギランバレー症候群
VAEDおよびVAERDに関しては、承認前の臨床試験では報告されていませんでしたが、新型コロナワクチン候補を評価するために開発された動物モデル(マウス、フェレットおよびサル)において、一部の研究で生ワクチン接種後に新型コロナウイルスに感染した場合に疾患増強が認められたことや、一部のMARSワクチン候補において、マウスモデルで疾患増強が認められたことから設定されました。
今回の新型コロナワクチンは、生ワクチンではなくmRNAワクチンですが、接種後に新型コロナウイルスに感染した場合、VAEDおよびVAERDにより重症化する可能性があると考えられるのです。
また、ギラン・バレー症候群に関しては、国内で新型コロナワクチン接種後に重篤なギラン・バレー症候群の副反応疑いが報告され、中には専門家によって新型コロナワクチンとの因果関係が否定できないと評価された報告もあることから、心筋炎・心膜炎と同様、市販後に新たにRMPに追加されたリスクです。
ギラン・バレー症候群については、2022年3月20日時点で、新型コロナワクチン接種後のギラン・バレー症候群疑い報告頻度とワクチン接種開始以前の背景発現率を比較した結果、背景発現率と比べて報告頻度が統計学的に有意に高くなることはなかったことから「潜在的リスク」と判断されていますが、今後、副反応疑い報告が増えてくれば、「特定されたリスク」になるかもしれません。
「重要な不測情報」、妊婦または授乳婦に接種した際の安全性
「重要な不足情報」としては、‟妊婦または授乳婦に接種した際の安全性について“と記載されています。これは、妊婦または授乳婦は承認前の臨床試験では対象外であり、これまでの使用経験も少なく、安全性プロファイルが不明であるためです。
通常、承認前の臨床試験では、妊婦または授乳婦は除外されるため、「重要な不足情報」として記載されるのは当然のことなのですが、前回もお話しした通り、新型コロナワクチンの承認段階では、血液-胎盤通過性や乳汁への移行性に関するデータは示されておらず(試験が実施されていない)、妊婦または授乳婦が接種した場合、胎児や乳児へのどのような影響を及ぼすのか分からないということなのです。
製薬企業は、RMPの策定が必要と判断された医薬品については、GVP(Good Vigilance Practice:医薬品等の製造販売後の安全管理業務を実施する際に遵守すべき事項を定めた基準に関する省令)およびGPSP( Good Post-marketing Study Practice :製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令)に基づき、RMPを実施することが義務づけられています。
さらに、承認後に安全性・有効性を検証するための臨床試験が必要な場合などには、GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)に基づいて、製造販売後臨床試験が実施されます。
新規の医薬品等については、承認前の臨床試験のみによって効果とリスクのバランスを完全に把握するのは困難なため、市販後に再審査期間が設けられていて、RMPや市販後臨床試験などの安全性確認のための調査が継続して実施されており、再審査の結果、承認が取り消されたり、効能効果の削除または修正されることがあります(図4)。
なお、新型コロナワクチンの再審査期間は2029年2月13日まで(特例承認後8年間)となっています。
医薬品、医療機器等の副作用情報の報告について
さて、市販後の医薬品安全性監視における「医薬品等の副作用(副反応)情報の収集」は、医薬品の副作用に関しては医薬品・医療機器等安全性情報報告制度(以下、副作用報告制度)、ワクチンの副反応に関しては予防接種法に基づく副反応疑い報告制度を通して実施されます。
副作用報告制度は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(いわゆる「薬機法」)に基づき、医薬品、医療機器又は再生医療等製品の使用によって発生する健康被害等(副作用、感染症及び不具合)の情報を製薬企業や医薬関係者が厚生労働大臣に報告する制度で、この報告は製薬企業および医療関係者の義務とされています。
また、制度として義務化されたものではありませんが、患者または家族が自ら報告(患者からの医薬品副作用報告)することもできます(図5-1、5-2)。いずれも報告窓口はPMDAで、郵送またはウェブサイトから報告することができます。
予防接種法に基づいた副反応疑い報告は、医療関係者の義務
一方、予防接種法に基づく副反応疑い報告制度は、その名の通り「予防接種法」に基づき、定期の予防接種又は臨時の予防接種を受けた者が一定の症状を呈していることを知った場合に、厚生労働省に報告する制度で、この報告は医療関係者の義務とされています。
製薬企業に関しては、医薬品の場合と同じ「医薬品・医療機器等安全性情報報告制度」に基づいて報告することになっています。予防接種後の副反応疑いの報告窓口も医薬品の場合と同じくPMDAです。
また、制度上は、接種した本人または保護者(家族)が、必要に応じて市町村に報告できますが、こちらも医薬品の場合と同じ「患者副作用報告」を利用することができます(図6)。
副作用(副反応)報告制度の目的は、『未知の副作用(副反応)を把握し、医薬品等の安全管理に役立てる』ことであり、医薬品の副作用やワクチンの副反応であると思われた症状であれば、程度にかかわらず報告可能ですし、患者や家族が報告する場合、医療機関等で副作用(副作用)と診断されていない症状が出た場合でも報告可能です。
従って、副作用(副反応)報告において、その因果関係は問われません。
患者または家族が自ら報告する場合は?
なお、患者または家族が自ら報告する場合には、PMDAのホームページの「患者の皆様からの医薬品副作用報告」にある「報告方法」を参照してください(https://www.pmda.go.jp/safety/reports/patients/0004.html)。
ただし、これらの副作用(副反応)報告により、PMDAから患者本人や家族に対して治療のための医療機関の紹介等の助言や調査結果の連絡等はありませんし、健康被害救済制度による給付金請求は別の手続きが必要となります。
また、副作用(副反応)報告からは当該医薬品やワクチンを使用した症例数の把握は容易ではないため、正確な発生数・発生頻度を把握することはできません。
しかしながら、副作用(副反応)報告をもとに、PMDAにより更なる安全対策の必要性が検討され、詳細な調査が必要と判断された場合には、医療機関、製薬企業への確認や調査依頼がなされます。
さらに、報告自体はデータとして残り、医薬品等の安全対策や副作用(副反応)との因果関係究明のための調査や研究に繋がります。副作用(副反応)報告は、稀あるいは重篤な有害事象の検出にはきわめて有用で、医薬品安全性監視には不可欠な情報源なのです(図7)。
患者による副作用(副反応)報告は、特に「自発報告」(spontaneous reports)と呼ばれ、アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツなどの諸外国では、早くから自発報告を受け付ける制度が導入されていて、国民に浸透しており、これらの国々では自発報告を検証するための疫学的研究が実施されています。
特に、イギリスでは、1964年におきたサリドマイドによる薬害をきっかけに、独自の副作用報告システムであるはイエローカード副作用報告システム(Yellow Card Scheme)が導入されており、導入当初は医療従事者のみが報告できる形でしたが、2005年から患者本人やその介護者が報告できるようになっています1)。
日本では、副作用報告システムに関して、医療従事者や患者に対する周知が徹底しておらず、認知度や理解度が低いのが現状で、実際に報告される副作用(副反応)は氷山の一角であると考えられます。
実際にこれまでにPMDAに報告され、厚労省が公開している新型コロナワクチン接種後の副反応疑い報告数(2022年11月13日報告分まで)を示します(図8)。
予防接種法に基づく医療機関からの報告では、副反応疑い症例が35,166件、そのうち重篤症例が8,001件、死亡例が1,456例報告されています。
薬事法に基づく製薬企業からの報告では、副反応疑い症例が26,154件、死亡例が1,842例報告されています。医療機関からの報告と製薬企業からの報告には重複例があるので、単純に合計することはできません。
これらの情報をPMDAが精査し重複分を除いた死亡報告例は1,919例となっていますが、そのうちの99%が情報不足等により新型コロナワクチンと死亡との因果関係が評価できないもの(γ)となっています(図9)。
これだけ多くの副反応疑い症例が報告されていますが、まさに氷山の一角であると思われます。
特に死亡例に関してはその因果関係評価を「情報不足」として放置せずに、可能な限り詳細な調査を進めると同時に、国が主体となって因果関係究明のための調査や研究を実施するべきだと思います。
今回は市販後の医薬品安全性監視についてRMPと副作用(副反応)報告制度についてお話ししました。
特に、医療関係者の皆様には、副作用(副反応)疑い報告制度に関する理解を深めていただき、今後新規の医薬品等が販売された場合には、RPMに関して関心を持っていただけたらと思います。
繰り返しますが、現在、国内外で新型コロナワクチンによる副反応疑い症例が数多く報告され、学会等でも具体的な症例報告が発表されるようになってきました。
このような状況においても国は依然としてワクチン接種を推奨していますが、一度立ち止まり、副反応に関して丁寧な調査や検証を行い、現時点で明らかになっているリスクや今後起こり得るリスクについても公正公平に分かりやすく国民に伝えるべきだと考えます。
参考文献:
1) 平成25年度医薬品医療機器総合機構委託 医薬品・医療機器等の安全性情報の入手・伝達・活用状況等についての調査「海外の規制当局及び製薬企業等からの情報提供体制等の状況及び海外の医療機関における医薬品安全性情報の入手・伝達・活用の状況に関する調査報告書」
編集後記
寄稿の中で、堀内さんも話されていますが、上がっている副反応疑い報告は、氷山の一角だと思います。
以前、当会で行った大学生へのコロナワクチン接種に関するアンケート調査では、副反応と思われる症状があったときに副反応疑い報告を行った学生は、6.5%でした。
5人に1人の大学生が「ワクチン接種に圧力を感じている」 - PR times
「これは、副反応かもしれない」と自分で意識して行った人の割合で、実際には副反応だときづいていないケースもあるはずなので、ワクチン接種後の体調の異常が起こった時に、実際に報告される割合はもっと少なくなる可能性が高いです。
安全な医療が行われる上で、こういった医薬品の安全性評価の制度や、副反応疑い報告の制度について、より多くの人が知ることが望まれますね。
堀内さん、丁寧な解説どうもありがとうございます。
『ワクチンによる健康被害救済の必要性』~薬害の歴史とコロナ禍における医薬品等の問題点~
全国有志看護師の会主催で、今回寄稿いただいた堀内有加里さんの講演会が1月22日(日)に東京であります。
医療、福祉系学生のワクチンハラスメントの問題についても触れていきます。学生さんは参加費無料でご参加できますので、この機会をぜひ活用してください。
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